• 四月のごあいさつ

    寒さが行きつ戻りつの3月を終わらせ、入学式に焦点を合わせたように桜の季節がやって来た

    春という季節はワクワクもするが季節の変わり目、身体のあちらこちらに不都合が生まれる季節でもある
    かくいう私も花粉の飛散で副鼻腔炎が悪化したし、何故か偏頭痛もでて、
    ジムで軽くストレッチをし始めると、突然
    「痛たたたー!」
    って痛む箇所が現れるとう情けなさ
    とかく、カラダが季節についていけないという厄介な時期でもある

    桜が散り青葉になる頃、途端に宴は終了とばかりに静まり返る
    道の脇には桜の花びらの川が…
    両手でかき集め、柔からく握って鼻を近づけてみた  微かに香る桜 日本のかほりだ

    高校一年の春、弓道部に入部したての私は時折りハラハラと舞い散る桜に感傷的な想いなど全くもたず、只々の目の前にある的に気持ちは逸っていた
    矢は右頬を走り、まったく的外れな場に突き刺さる
    そんな青春時代、思い返してみてもいつだって思いの届かぬ青い時だった

    桜はそんな想いを起こす色、
    もう戻れぬそれぞれの新しい時がスタートする四月

    久保田真弓

Story
寄稿

萬器三十周年に添えて

 土と火と水、そして手技。器は、自然と人間の接合点で生まれる表象である。その意味や価値を無言のうちに語りかけてくるから、私たちは器という存在に惹かれるのかもしれない。

あえて「器」と書いたのは、このたび三十周年を迎えた「萬器」の名前にちなんでのこと。もちろん、「器」は、工芸から生み出されるすべてのものに置き換えられる。今日まで三十年の長きに亘り、「萬器」が扱ってきた表象のかたちは数限りない。それらひとつひとつが誰かの手に渡り、親しく使われ、愛されながら、この世界のあちこちに点在する様子は何かに似てはいないか。無数に散らばる星々を線で結んだとき、まなうらに浮かび上がる図形。それは私に星座を想起させる。

思えば、「萬器」は、歳月と空間をつうじてものとひとを交差させ、繋ぎ合わせながら拡張する役割を任じている。着々と、黙々と。これもまた創出の表現である。

平松洋子 Yoko Hiramatsu

作家、エッセイスト。東京女子大学文理学部社会学科卒業。2006年『買えない味』でBunkamura ドゥマゴ文学賞、2012年『野蛮な読書』で講談社エッセイ賞、2022年「『父のビスコ』で読売文学賞を受賞。『食べる私』『日本のすごい味』『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け』など著書多数。

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